起業ストーリー|
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最新のアレルギー理論を家庭の食卓へ。平均年齢70歳のスタートアップが挑んだ「粉末卵」プロジェクト

「食物アレルギーをなくし、すべての子どもに食べる喜びを提供する」

それが、株式会社ビー・ケースの掲げるミッションです。

日々の食事は体を作るだけでなく、コミュニケーションの時間でもあります。しかし、食物アレルギーを抱える子どもやその家族にとって、「みんなと同じものを食べる」ことが難しい場面も少なくありません。

弊社が開発した「チャイルカップたまご」は、卵に少しずつ慣れていくための食品です。国立成育医療研究センターでの研究データをもとに、安全性に配慮して作られています。無理なく、どんな家庭でも取り入れやすい粉末状の卵で、子どもと家族の食を支えたい――。そんな思いが、この商品には込められています。

医師に託された思いを形に。定年退職済みの5人が集結

弊社代表の今哲昭は、製薬会社勤務時代から国立成育医療研究センターに出入りしていました。国立成育医療研究センターは厚生労働省所管の国立研究開発法人で、子どもの医療や周産期の女性に特化した国内有数の施設です。定年を迎え、医師たちに退職を伝えたときに、思いがけない言葉をかけられました。

「卵の粉末を作ってほしい」「そのための会社を立ち上げてほしい」

国立成育医療研究センターでは、乳児に少量の加熱全卵を摂取させることが、鶏卵アレルギーの発症予防につながる可能性を示した研究成果が発表されていました。しかし、家庭で規定量のゆで卵を毎日調理するのは手間がかかります。手軽に活用できる商品の必要性を感じつつも、研究施設での開発は難しく、その思いを形にできる企業が求められていました。

この提案を受け、2022年にビー・ケースを設立。「子どものアレルギーを減らしたい」という趣旨に賛同した製薬関連企業出身の仲間とともに、新たな道を歩み始めました。集まった5人のメンバーは、いずれも元の会社を定年退職した人間ばかりで、2026年現在、平均年齢70歳のスタートアップ企業が誕生しました。

会社人生で初めて目にした「お客さまの生の声」に手ごたえ

大手企業でさまざまな経験を重ねてきたメンバーでしたが、製造工場や販路を探したり、厚生労働省・保健所などでの手続きは初めてのことでした。さらに「少量の卵を摂取する」という考え方が、一般にはまだ浸透していませんでした。

メンバーの誰ひとりとして、SNSの利用経験はありません。認知を広げるための広告や情報発信に苦労しつつも、「5人しかいないのだから、全員が何でもやらなければ」と奮起しました。

製薬会社時代は、交渉の相手は医師や企業が中心で、利用者と直接やり取りする機会はありませんでした。しかし、ECサイトへのレビューなどを目にするようになり、お客さまの生の声を聞けることに楽しさや手ごたえを感じるようになりました。

離乳食に混ぜるだけ。調理の手間なく始められる卵への第一歩

国立成育医療研究センターの医師による指導のもと、まずは医療機関向けの「ミルステップegg」を開発しました。ミルステップeggの購入には、医師の摂取指導が必要です。3種類のラインナップのうち、もっともタンパク質量が少ないミルステップegg1をベースに、一般向けのチャイルカップたまごが製品化されました。

チャイルカップたまごの最大の特長は、実際の卵を使うよりも簡単で、手間がかからない点です。本来、卵に慣れるためには耳かき1杯分の固ゆで卵から始めますが、ゆでる・裏ごしする・量を測る・保存するなどの多くの工程を伴います。チャイルカップたまごは加熱した全卵の粉末を使い切りパックにしているため、こうした負担の軽減が可能です。

利用者からも、「1グラムずつ小分けされているから使いやすい」「耳かき1杯分のためにゆで卵を作る手間から解放された」「自分で卵を使うのは怖かったので、専用の商品があるのはうれしい」といった声が寄せられています。

使い方はとてもシンプルで、用意した離乳食にふりかけたり、混ぜるだけです。最初は、おかゆから始めると取り入れやすいでしょう。

子どもの食べる喜びのために、最新のアレルギー理論を広めたい

アレルギーの発症と予防の仕組みについて「二重抗原曝露仮説」が発表されたのは、2008年のこと。その内容は「肌のバリア機能が低下している状態でアレルゲンが皮膚から入ると、アレルギーが起きやすくなる。一方で、早期にアレルゲンを経口摂取するとアレルギー発症のリスクを低減できる」というものでした。

二重抗原曝露仮説は世界各国で実証され、現在では食物アレルギーに関する主流の考え方になってきています。チャイルカップたまごも、この理論にもとづく商品です。

ビー・ケースでは、二重抗原曝露仮説における肌のバリア機能の部分に着目し、保湿剤「チャイルケア スキンミルク」も開発しました。新生児の肌バリア機能は大人の半分以下なので、専門医のアドバイスを参考に必要以外の成分(界面活性剤・香料・防腐剤など)を含まず、独自の製法で保湿力を高めることに成功しました。しかも使い切りパウチの小分けタイプとし、1回量がわかりやすく、持ち運びが便利な形状にしています。

加えて、白身のみの商品「チャイルカップ卵白」もすでに販売を開始しています。医療機関向けのくるみアレルギー対応商品「ミルステップくるみ」を、一般向けに展開する構想も進んでいます。木の実類のアレルギーは反応が強いうえに、件数も鶏卵より多くなったとのデータもあります。

ビー・ケースが目指しているのは、商品の販売だけではありません。「二重抗原曝露仮説」や、少量からアレルゲンに慣れていくという考え方そのものを広めることです。

子どものアレルギーを減らし、誰もが同じ食卓で、同じ食事を楽しめる未来を作りたい。そして、みんなで食べる喜びを感じてほしい――。そんな思いが、会社の根底にあります。